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かのんへのレクイエム 4  知りたくない   [追悼]

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西岡公園 2009年1月

「どんな患者に対しても希望を失わせないようにするのが医療。」
それが、医療ライターとしての彼女の信念だった。
だから、病に苦しんでいる友人に対して自分が胃の摘出手術を受け、再発の恐怖と戦っている身でありながらも希望を捨てぬように、励まし続けてもいた。
「きっと良くなると信じることを止めてはいけないよ」
そう遠くに住む友に必死に電話で話かける彼女の姿を思い出す。

そんな彼女が癌の再発を告げられた時・・
皮肉にも彼女は患者の立場として、患者の希望を打ち砕く心ない医療と対面する。
その時のくやしさを涙まじりに話していたことを思い出す。

淡々と癌の転移を説明する医者の説明に声も出せない。
どうしたら、ほんの僅かな可能性をつかみ取る事ができるのか。
どうしたら、もう少しでも最悪の事態を延ばすことができるのか。
彼女が知りたいのはそのことなのに・・
淡々と、ただ淡々と、何も話す事ができない彼女を前に癌の転移について説明をする医師。

未だ死ぬ訳にはいかない。
一人残す息子の受験を春に控えている。
この大事な時にどうしてそんな残酷な運命を受け入れられるのだろうか。
胃を切除して1年を生き延びた事を喜んでみんなに伝えたばかりなのに・・

彼女は大切な息子の名前を心で叫ぶ。
そして引き裂かれるような心の痛みに口を閉ざす。
医師は聞く「何かお聞きになりたいことはありますか?」
「・・・・」彼女の声は出ない。出るはずも無い。
さらに医師は話す。
「普通は余命はどのくらいかと聞く人が多いですが・・。」
「そんなことは知りたくないです。」
ようやく、声を絞り出し部屋を出た。

母一人、子一人で生きてきた。
いつ再発するかという恐怖に加え、生活の不安、息子の受験に対する不安、父親の健康・・・
数々の不安を持ちながらも気丈に明るく生きていた。
そんな彼女の心をどうしてほんの少しでも、理解してやれなかったのか。
告知を受ける人を思いやる気持ちを伝えることができないのか。
何のための医療だろう。

心が震える。
その時の彼女の姿を思い浮かべるたびに心が震える。
そしてその震えは、多分おさまることはない。


「死は近く雁は遠くに降りたまふ」
        2008年 10月 Minatsuki Akito


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コメント 7

mimimomo

こんにちはーー
かのんさんご自身、そして周りの方・・・どんなお気持ちだったか、わたくし自身ありがたいことに健康ですから、わかりません。
ただ助からないと分かった病に冒された息子の看病の思い出が蘇ります。
本人に知らせないで、いかに希望を持たせ、また親も希望を持つか・・・
苦しかったです。
by mimimomo (2009-02-22 16:21) 

Yuki

身内を癌で亡くしている私には、読むのがつらくなる
お話でした。
by Yuki (2009-02-22 17:45) 

haru

mimimomoさん
死を考えている人に比べて、普段、死を意識せずに生きていられるということはすごく幸せであり、ある意味罪なことなのではとも思います。
死を考えている人は以外と多いのでしょうから・・
by haru (2009-02-22 20:34) 

haru

Yukiさん
そうですか。どなたかが癌で亡くなられているのですね。
つらいことを思い出させることとなってしまいました。
ごめんなさい。
でも、ぼくはこのことを書きとめ、誰かに知らしめることがとっても必要なのだと考えました。


by haru (2009-02-22 20:37) 

blume

真実を告げるだけではなく、こころのケアも
必要なのでは?と・・・
by blume (2009-02-22 20:41) 

haru

手術主体の救急医療を手がける病院ではそういったケアは手薄です。
反面、終末医療を手がける病院では患者のみならず家族までの心のケアを考えているところが多いようです。
かのんはこの後にそういう病院に入ることができ、手厚い看護を受けました。
ただ、そういう病院は圧倒的に少なく、入院は難しいのが現状です。


by haru (2009-02-22 20:45) 

ちょんまげ侍金四郎

うちの親父も癌でしたが、つくづく癌って何だろうって思うのです
抗癌剤みたいに毒をもって制すと言うものではなく
体に優しく、しかも癌細胞を制圧できる、そんな薬がいつか出来ると良いですね
by ちょんまげ侍金四郎 (2009-02-27 08:56) 

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