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かのんへのレクイエム 2 雪豹 [追悼]

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2008年12月26日に亡くなった、「かのん」に捧げます。
ライターを職業としていた「かのん」が残したサイトはこちらです。
(「かのん」のペンネームは水月秋杜でした)
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かのん、君が灰になるのを待っている間、ぼくは真新しい火葬場の待合いのホールで長椅子に一人座っている。
君の親族や知人達が食事をとったり、お茶をのんだりしている待合室には何故か入る気がしない。
本当はね、ここには来ないでおこうと思った。
悲しみにつぶれないように、葬儀に出席したことで君へのお別れを済まそうと決めて家を出た。
でも、かのん、葬儀場に着いて君の遺影を見たらなんだか無性に胸がざわついたよ。
いつになく、やさしげで慈愛に満ちたような君の遺影からしばらくは目を離せなかった。
ざわざわと胸が騒ぎだし、やるせない思いが溢れ出てとうとう式が終わった後にここまでやって来てしまったよ。

向かいのホールの壁は一面ガラスとなっていて、寒々とした冬の景気が映っている。
ぼんやりと景色を眺めながらぼくは長椅子で一人、君の思い出を少しずつたぐっていった。

癌が再発したことが解っても最後までぼくとの約束どおり生きる希望を捨てなかった君。
亡くなる前の晩にお見舞いに行った時に「そろそろ帰るよ」といったぼくの手をやせ細った手でしっかり握りしめた君。
最後まで一人残す息子さんを愛おしく思い別れを認めたくなかった君。
桜の花を見るのが大好きでむりやりぼくを桜並木に誘い出し、喜んでいた君。
喫茶店で小説の応募原稿を出版社宛の封筒に入れて大事そうに封をしていた君。
「胃袋が無くなったから腸に食べ物が落ちる様子がよくわかる」と笑っていた君。
かのん、いくつもいくつも思い出が湧いてくるよ。

小さなその体に次々と襲う不幸にもひたすら前向きに立ち向かっていったね。
ぼくが出会ってからの君の4年間の君の生き方は壮絶でありながらも持ち前の明るさで可憐さを失わなかった。
ねぇ、かのん、ぼくはこれから君に何をして上げられるのだろうか。

ガラス越しの景色の中を一陣の風が走ったのを感じた。
その時ぼくは君の気配を感じた。
やがて表は風が吹き荒れ、たちまち雪が舞い散る吹雪となる。
雪が踊る。
風が舞う。
下からも、上からも、横からも・・・。
かのん、君のもう一つのニックネームは「雪豹」。
この雪は君が降らせているに違いない。
粉のような白い雪を降らせ風を操り空を駆けている。
そして風と雪を使って大好きなシンフォニーを奏でているんだね。
書きかけになったたくさんの小説の最後を雪と風のシンフォニーにのせてゆく。
たくさんの思いを俳句に詠み、雪と風のシンフォニーにのせてゆく。
どんどん風は強くなり、雪は降りしきり景色を薄れさせていく。
そしてシンフォニーはいくつもの音が重なり重厚に奏でられてゆくようだ。
白い雪豹が雪と風の中を飛び跳ねてゆく

やがてガラスいっぱいの景色が全て真っ白くなる。
何もかも、どんどん白く、白く・・・。
一瞬何もかもが白くて見えなくなった。
そして、雪豹は天に昇っていった。

今、ぽくは君が天に召されたことを知った。
かのん、かのん、さようなら・・。
たくさんの苦しみや胸を裂かれるような思いからようやく君は自由になれたね。

ホールに案内が流れて、君の親戚や知り合いが部屋から出て来た。
ぼくはまだガラスの向こうの吹雪に未練を残しながら、列の最後を歩く。
そして重い扉を明けた部屋には雪のように白く、そして小さくなった君の思い出が運ばれてきた。

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* ぼくにつたない文章を書く事の動機を与えてくれた、「かのん」こと
               水月秋杜が残したぼくの大好きな詩が下記のメニューにあります。



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コメント 24

Yuki

大切な方と、長年のお友達を亡くされたのですね・・・。
何と、申し上げれば良いのか言葉が出てきません。
私も、癌で早くに父を亡くしています。
by Yuki (2009-01-25 15:16) 

こうちゃん

いい詩ですね。
by こうちゃん (2009-01-25 18:17) 

katsura

今書き続けられる喜びを胸に机にまた戻ります。
by katsura (2009-01-25 18:40) 

haru

>Yukiさん
彼女はキリストの洗礼を受けたので今日、ひと月目のお別れにご自宅に伺いました。こうして少しずつ区切りをつけて心の底の大切な思い出になってゆくのでしょうね。
by haru (2009-01-25 21:59) 

haru

>こうちゃん
この詩はあまり記憶が定かではないのですが、昨年の春に友人が自殺しぼくが苦しんでいた頃に、彼女が書き残していたものだと思います。
もしかすると自分が亡くなった時のぼくの苦しみを予定していたものかも知れません。
by haru (2009-01-25 22:02) 

haru

>katsuraさん
なんとなく、かのんの書いたものと貴方の書くものは似ている気がします。がんばって良い作品を発表してください。


by haru (2009-01-25 22:04) 

青い鳥

かのん様、haru様のように心を開いて語り合える友がいて、
どんなにかお幸せだったと思います。
ご他界なさってから、もう1ヶ月が過ぎたのですね。
by 青い鳥 (2009-01-26 01:14) 

haru

>青い鳥さん
この一ヶ月はぼくにとってとても長く、そしてつらい一月でした。
ぼくとの出会いが彼女にとって良き事であったことを感じて彼女の安らかな眠りを感じられるまで一ヶ月という時間が必要でした。

by haru (2009-01-26 08:31) 

mimimomo

こんばんはーー
ひと月、短いような永いような・・・
心の整理には足りないのかもしれませんが、
きっと何時までも忘れず思い出を心に持つということが
かのんさんに対して素晴らしい供養になることかもしれませんね。
by mimimomo (2009-01-26 19:08) 

Baldhead1010

墓標は・・・要らないからね。
by Baldhead1010 (2009-01-26 19:54) 

haru

>mimimomoさん
かのんはライターだったのであちらこちらに彼女の残した文書や出版物があります。それを手にするたびに思い出し、痛み、痛みを癒しながら生きていきます。
by haru (2009-01-26 20:30) 

haru

>Baldhead1010さん
かのんはお骨を世界中にまいておくように息子さんに言っていたようです。特にヨーロッパにはもう一度是非行きたかった様子でしたので息子さんは受験が終わったら出かけたいようです。


by haru (2009-01-26 20:33) 

きまじめさん

かのんさんは旅立って行くことに心残りもあったでしょう。
haruさんの心は、今は辛さでいっぱいでしょうが、
少しずつ時間が過ぎてその悲しみも昇華されたとき、
かのんさんはharuさんの心の中に思い出としてずっと留まるのですから
とてもお幸せだと思います。
by きまじめさん (2009-01-27 22:59) 

やおかずみ

綺麗な写真ですね。ナイスだと思います。
by やおかずみ (2009-01-28 10:38) 

haru

>きまじめさん
ありがとうございます。
少しずつ、心のなかで消化していこうと思います。

by haru (2009-01-28 17:52) 

haru

>やおかずみさん
ありがとうございます。

by haru (2009-01-28 17:53) 

blume

ご訪問ありがとうございました。
前記事も読ませて頂きました。
あまりに悲しい出来事で言葉が浮かびません。
by blume (2009-01-28 20:09) 

haru

>blumeさん
ありがとうございます。
でも、今は大分立ち直り、こうして自分の気持ちを文字に表すことができるようになりました。


by haru (2009-01-28 21:27) 

TaekoLovesParis

大切な人との別れが2つもあったのですね。
私も母と親友をがんで亡くしましたが、いつも2人が、声をかけてくれているような気がしています。
平常心に戻るには、まだ時間が必要かもしれませんが、私の場合、ブログが時間を忘れさせてくれました。
by TaekoLovesParis (2009-01-28 22:21) 

haru

>TaekoLovesParisさん

悲しみを忘れるには悲しみをおもいきり表現することなのだと思っています。
変に忘れようとして気持ちの無いことをしてもかえってぬけだぜなくなりそうです。


by haru (2009-01-29 19:54) 

mwainfo

ご訪問有難うございます。伝えること、きちんと子ども達に何かを伝えるのも、生きている証ですか。
by mwainfo (2009-01-30 23:57) 

翠川与志木

初めまして、Taekoさん経由できました。
前記事も拝見しました。
言葉がありません。ごめんなさい。
by 翠川与志木 (2009-01-31 02:26) 

haru

>mwainfoさん
こちらこそありがとうございます。子供達に何かを伝えることは大事なのだろうと思います。
by haru (2009-01-31 11:28) 

haru

>翠川与志木さん
ご訪問ありがとうございます。

by haru (2009-01-31 11:31) 

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