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メタボな人 [ショートストーリー]


写真 野幌森林公園 2007年10月

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以下はリアルティ溢れるフィクションです。
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 「あのねぇ、それはあまり効果ないよ。」そう言って、同年代の医師はメガネ越しに少し見上げながら言う。
 
  35歳くらいからお腹の脂肪が付き始めた。40歳の頃にはお腹はもちろん、全体的に丸みを帯びた体型になってゆき、50歳では正面から見ても、お腹ぽっこりが隠しようもなくなった。解せないのは胸にも脂肪がつき何やら乳房のようになってきたりもして恥ずかしい。やれやれという思いを胸に、いろいろとその時々にそれなりには対策を考えて実行はしてみたよ。ご飯の量を減らしてみたり、痩せるのに効果があるというサプリメントを飲んでみたり、毎日寝る前に腹筋をしてみたりさぁ。

 でも一番効果があったと思ったのは犬を連れた散歩だよ。犬は散歩をしないとうんちが出ないので毎日朝にはお散歩って事になっちまう。仕方なしなしの散歩がそのうちに散歩しないと落ち着きが悪くなってきた。だってあの犬のどこか訴えかけるような、物欲しげで寂しい目つきを見るとね、善人のぼくとしては散歩連れて行くしかないよね。犬を連れてシャンシャンと近所を30分位毎日散歩ってのは、慣れてくると楽しいもんだった。でもさぁ、死んじゃったんだよねぇ。犬がさぁ。ある日ポッコリ死んじゃった。悲しかったなぁ。しばらくはショックでいろいろする気が失せちゃって、ずっと続けた散歩の効果はおつりがついて、更なるお腹の肉となって帰ってきたんだよ。だけど、死んだ犬が不憫で・・・ううっ・・別な犬を飼う気にはなれなかったんだ。

 でも、犬が死んだからって、太りすぎて、ぼくまで死にそうになるのは流石にやばいと思って、いろいろ考えて近くの森の散策路を歩くことを思いついた。この森は迷路みたいに散策路が複雑になっていて一度入ると簡単には帰れないってのがいいって思ったんだ。一旦中に入ると懸命に歩くしかないってことだよ。そりゃあ、最初のうちは、必死で一時間以上を歩いた。でもその内慣れてきて、どうせ森の中を歩き回るのならと、デジカメで景色や草花を撮って歩くことにしたんだ。そうすると、何やら楽しげに感じて来るから、人間ってのはいい加減なもんだよ。でもね、毎日1時間半も2時間も歩くってのは、仕事もある事だし、無理だから結局、週に1回か2回ってことになるんだよね。

 会社の健診の問診で医者に「中性脂肪が多いけど、何か運動してる?」って聞かれたので、森の散歩の事、得意になって話したんだよ。ぼくなりには、立派な対策だと思ってたのにね。それが、どうだい、医者は「そんなの、効果ない。」って言うんだぜ。「おっぱっぴぃー」か・・。このぉっ。「だってね。運動は週に1回まとめてしたからって、効果的に脂肪燃焼には向かないよ。毎日、30分でもいいから何か運動をするようにした方がいいよ。」と、さらに医者が言う。だぁーかぁーらぁーっ、そんなことしたら、あのかわいい犬との散歩が思い出されて、悲しいからぁ無理なのぉーよぉーっ。そう、ぼくは心の中で叫んだよね。だから、医者っていう人種は好きではないよ。何でも理屈で人を押し切るとこあって、人はもっと文学的な部分で生きてるってぇのぉっ。その人を見て、その人の周りにはいろんな心象的なものがふっついて生きてるってのを理解しようとしないのね。これはさぁ、別に三流の私学大学しか入れなかった負い目とかそんなんじゃあないんだよ。足し算、割り算、掛け算、引き算だけしかしらずに生きてきたっていうコンプレックスじゃあないぞっ。

 なんてことを、医者にわざわざ言ったところで、儲かる訳ではないので、「そうですか・・。」と素直に返事をして診察室を出て待合の椅子に座る。ちょっとすると、さっきの医者が診察室から出てきた。ぼくはじっと、その医者のお腹あたりを見つめる。じっと見つめるとなんだか、医者がオロオロと、白衣の前を合わそうとする。でもね、大きく白衣からはみ出たお腹は、隠せないんだよね。医者と目が合って思わずぼくは、何も見なかったように視線をずらす。ずらした視線の先には、「メタボリックとは」と書かれた大きなポスターがあった。

 ぼくは、体重を絶対に減らす決意を固めた。そして、ようやく愛犬の死を乗り越えられそうな気がした。
 目指せ腹囲85cm以下・・・




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青い鳥

「メタボな人」、他人事ではありません。
私も該当します。
犬が死んで、そのあとに新しい犬を飼う気になれないところも同じです。
毎日散歩を30分、それがいい事は分かっていますが、
その30分はブログを読む時間に当てられています(泣)。
by 青い鳥 (2007-11-09 19:29) 

おはようございます^^
今日のストーリーは今までのと違って何だか笑えてきました^^
その辺にありそうなお話ですね~。医者の何とやら・・・って昔から言いますね^^
by (2007-11-10 10:38) 

haru

>青い鳥さん
お互いに健康には気をつけましょう。
運動こそが薬のようです。

>mimimomoさん
医師と言えども、中年は中年。
理屈で不健康を乗り越えようとしている医師も多いようですが、メタボは何といっても不摂生の表れなので、お腹の出ている医師にとって悩みの種のようです。
by haru (2007-11-10 21:03) 

どっきりします^^;
by (2007-11-10 21:46) 

かよりん

題名、笑っちゃいました。haruさんよくご自分のことそう仰るから。
てっきりノンフィクションかと・・・いえいえフィクションですよね!分かってますって。
愛犬のくだりは、ウチも1年前に愛犬死んでしまったので父の姿とダブりました。

1+1=2じゃないこと人生にはいっぱいありますよね。
by かよりん (2007-11-11 18:13) 

haru

>ananさん
どっきりするということは・・・

>かよりんさん
中年親父にはペットの死みたいのって結構こたえるできごとだったりしますよね。
お父さんにはやさしくしてあげてください。
by haru (2007-11-11 21:29) 

pistacci

まぁ、お医者様も仕事、ですからねー(笑)
15分でも、効果のある歩き方をすると、よいみたいです。
なんで世の中上げてダイエットなんでしょうかね、っと、他人事じゃない私です。
by pistacci (2007-11-14 11:31) 

haru

>pistacciさん

このままでいくと健康保険も財政破綻になっちゃう。しかも団塊の世代以下の健康状態たるや、成人病予備軍にアル中予備軍、潜在的うつ病など、将来、治療費のかさむ種がゴロゴロ。なんとかするにゃあ、未病の状態で手を打って発病させないようにするっきゃあないってことですよねぇ。
やれやれ・・・。人事ではないので努力せねばね。
by haru (2007-11-19 09:24) 

ははは~ 
大分前 新聞に「醜く突き出た・・・」という広告が載っていました。(笑)
時勢柄、きゅうきゅうとした生活を耐え忍ぶか?
自由気ままに好きな事をし、コロンと死ぬか?
どっちにしても大変ですよね~
やっぱり、死ぬまで丈夫でいたいから運動と食事 気を付けたいですね。
by (2007-11-28 14:04) 

katsura

海外に行くと、メタボってなに?って感じになりますが。
by katsura (2008-12-10 21:05) 

haru

おっ まだお忘れでなかったですか。
しばらくごぶさたしています。
もう少しでまた復帰したいと考えております。
よろしゅうに・・・
by haru (2008-12-10 22:45) 

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