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大人の休日の午後 [大人と子供]

写真 野幌森林公園  2007年10月

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以下は絶対にフィクションなのだ。
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 隣の家のかずちゃんが、遊びにやってきた。
いつものように、元気に「こんにちは。おじゃましていいですか。」という声。
「来た来た。」といううれしい気持ちを隠して、さりげなくそして静かに、大人の品格をもって「いらっしゃい。」と答える。

 

 

 「おじさん、何してるの?」といつもの質問だ。
「うん、おじさんはね、本を読んでいろいろ考えていたんだよ。」
本当は暇をもてあまして、さほど読みたくもない本をペラペラめくっていただけだ。
日曜日の午後に親父一人残して、子供達も妻も好き勝手放題に、出かけていってしまった。
「かえってこっちもせいせいするさ」と気張ってみても何か物足りない感じ・・。
足りないものは解ってるよ。もちろん、隣のかずちゃんだ。

 「おじさん、何を考えてたの?」
「んっ・・。政治のこととかさぁ・・。」んなこと本当は考えてないってのっ。
「おじさん。」
「なんだい。」
「おばさんもおにいちゃんもいないの?」
「うん。でかけちゃってるよ。」
「じゃあさあ・・。本当は一人で寂しかったんじゃないの?」
するどい。早くもかずちゃんに、座布団一枚だ。
「まっまぁ、かずちゃん、クッキーでも食べるかい?」
「うん。いただきます。」かずちゃんは、おいしそうにクッキーを食べ始める。
「おじさん。」
「えっ。なんだい。」
「クッキーおいしいね。」
「そうかい。おいしいかい。」
「おじさん。」
「えっ、どうしたの?」
「ぼくはねぇ・・・。」
「なんだい。」
「ジュースよりはね、牛乳が好きなんだよ。」
あっ・・、そうかぁ、飲物を出すのを忘れてたのね。
直接飲物が、ほしいと言わないあたりがなんとも・・・。
気がつかない、こっちがトホホだよなぁ。いけないっ大人としての品格を・・。

 「はい、かずちゃん、牛乳だよ。」
これまた、おいしそうにコクコクと牛乳を飲む。
いゃあ、旦那、いける口ですなぁ・・。なんてねぇ。
「かずちゃん。」
「なに、おじさん。」
「最近、幼稚園はどうだい?」
「まぁ、ぼちぼちかなぁ。」
クククッ、いったい何がぼちぼちなのかなぁ。
「そうかい。ぼちぼちかい。」クククッ。
「そうだよ、ぼちぼちが良いって、おとうさんが言ってたよ。」
「そうなんだぁ。ぼちぼちが良いんだねぇ。」
「いろいろ考えたって仕方ないんだってさ。」
「そうねぇ、いろいろ考えたって、仕方ないのかなぁ。」
「そうだよ。おじさん。仕方ないんだよ。慌てないのが、一番だって。」
んんんっ、妙に説得力あるなぁ。
「おじさんさぁ・・。」
かずちゃんが、じっとテレビの方を見ている。
「そうか、トムとジェリーが見たいのかい。」
「うん。見てもいいですか?」
テレビの電源を入れて、CSのアニメチャンネルを選んであげる。

かずちゃんは、真剣にアニメを見始める。
相変わらずのトムとジェリー。
何十年たったって、子供にとって面白いものは、面白いのかなぁ。
相変わらずジェリーは、逃げてトムが追いかける。
そんなことを考えながら、いっしょに画面を眺める。
やがて、大好きなトムとジェリーが終わってしまう。
「おじさん。」
「なんだい。」
「まぁまぁだったよね。」
「うん、まぁまぁだったね。」うーん、またまた、いったい何がまぁまぁなのか・・。
「ぼくさぁ、これで帰るよ。」
えっ、もう帰っちゃうの・・。と慌ててはいけない。おちついた大人の対応を・・。
「ああ、帰るのかい。」
「おじさん。」
「なんだい。」
「さみしいんだったら、後でまた来てあげるよ。」
「うん、ありがとう・・。」
おおおっ、つい本音を吐いてしまったぁ。ヤバイ・・。大人としての面子が・・。
座布団5枚は、取られたなぁ。
「それじゃあ、おじさん。」
「うん、なんだい。」
「ぼくも、いろいろお付き合いがあるから、とりあえずまたね。」
「・・・・。」

こうして、一人の休日の午後は、過ぎていくのでありました。


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青い鳥

子供の観察眼、実際なかなか鋭いものがありますよね。
そして残酷な内容の事でもさらりと口に出してしまいます。
そこが子供だといえばそうなのですが。
それをこんなお話に仕立てたharu様、やはり凄いです。
by 青い鳥 (2007-10-24 09:03) 

むらさき

子供には心の中を見透かされているように感じる時が
ありますよね。秋の午後にぴったりのエッセイでした^^
 
by むらさき (2007-10-24 10:08) 

masugi

我が家の子供たちも、トムジェリ、大好きです。
あんまり見たがるので、相方の手で隠されちゃい
ました☆
ホント、切り取り方が上手いですね~。大人だって
寂しいんだよ、と私も時々つぶやいています(笑)。
by masugi (2007-10-24 21:51) 

どっちが大人か子供か分からない二人。
とてもほのぼの いい感じ♪
by (2007-10-24 22:26) 

pistacci

何度読んでもわらっちゃいます。
こどものなかでも、とりわけ幼稚園生が一番面白いんではないかと
私も思っています。ときどき話す機会があるんですが、かならず意表をつく答えが返ってきて、楽しいですねー。
by pistacci (2007-10-24 22:44) 

おはようございます^^
紅葉のお写真、とても綺麗ですね~。
今日のストーリーとピッタリ^^
何だか小さい頃の自分を思い出すようなお話でした。
by (2007-10-25 04:56) 

haru

>青い鳥さん
子供とはいつも真剣勝負で会話せねばなりません。
とくに最近の子供はなかなか情報通ですからね。

>むらさきさん
何もわかっていないようで、わかってるような感じがする瞬間があって、それって楽しみですよね。

>masugiさん
トムジェリやっぱり好きですか。あんな古いアニメなのになぜか今でも楽しめるってすごいですよね。

>風子さん
どっちが子供かって・・・。基本的にはいつも真剣勝負です。それが楽しい。

>pistacciさん
子供は皆、一時期天才ですよね。

>mimimomoさん
今年は北海道は紅葉が遅くていつも、一度に燃え上がるように赤くなるのにちょっとまだら気味です。でも長く楽しめそうですよ。
by haru (2007-10-25 18:03) 

かよりん

ほのぼのしてて、思わずニッコリ。
こういうの大好きです!
大人が忘れかけていたものを取り戻す感じですね。
by かよりん (2007-10-25 22:11) 

きまじめさん

最近小さいお子さんとお付き合いが無いので、懐かしい思いで読ませていただきました。
子供って怖いほど、大人の心を読み取るところが有りますね。
会話の中に、子育ても終わったおじさんの何か物足りないような心の中を
垣間見たような気がします。
by きまじめさん (2007-10-27 14:17) 

○の中に数字が入るのは20までだから、
悲しい人たちは終わるのかな?と思ってました。
慌てずぼちぼち、が理解できるなんて、君はオトナだね。
と言いたいですな。
haruさんがつづる、小さい子とのお話、もっと読みたい!!
ぜひ続編を・・・。
by (2007-10-28 00:27) 

haru

>かよりん
子供と真剣に話すとお勉強になりますよね。

>きまじめさん
子供が大きくなって一人前の口をききだすと、ほっとする反面、残念であったりもしますね。

>むっついさん
ほんとうだ!! 20までしかないのよね。
知らなかった・・・。
そういう意味ではいい区切りかもね。
by haru (2007-10-29 15:30) 

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