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森の美しい花 [徒然]


君のことはずっと忘れなかったよ。
ぼくは心の中のどこかで君のことはずっと忘れずにいた。
いつも前向きで明るく、そして一生懸命に働いていた。
会社の仕事が終わると、残業で帰りが遅くなった時でも家業の飲食店の手伝いをしていたね。
それがどんなに忙しい日が続いても、夜遅い日が続いても、めったに疲れた顔をしない。
「そんなに一生懸命で疲れないの」と聞くと
「疲れるけどがんばんなきゃ」と答える。
君の手は小さくてかわいらしいかったけれど、いつも水あれや生傷が絶えなかった。


わざわざ、困難な道を選ぶところがある。
北海道の中ではある程度いい大学を卒業し、上場企業に就職をして、一応のポジションも得た。
仕事ぶりも上々で、評価も良かった。
それなのにさしたる理由もなく突然、会社を辞めて不安の多い道を選ぶと言う。
ぼくには、どうして君が会社を辞めるのか解らなかった。
経済的にもこのまま勤めるほうがずっと優位だったし・・・
何度も理由を尋ねたが、笑って「私、そのほうが良いって思ったから・・」と言うのみ・・・

何かの時にメガネをはずした君の顔をまじまじと見たことがある。
太い縁のメガネに隠していた君の顔はとっても美しかった。
化粧をあまりせず、わざと縁の太いメガネをかけて本来の美しさをごまかしていたようだね。
着ているものも、同じ年代の女性と比較すると地味な感じがあった。
人よりも美しいと見られたり、誉めたりされることが嫌いみたいだったね。
いつも明るく、自分の事よりは人の事を気にかけていた。
お母さんのこと、お父さんのこと、同僚のこと、お客さんのこと、付き合っている人のこと・・・

でも、当時のぼくには、君の生き方は理解できなかった。
ぼくは自分の事でいっぱいで、余裕がない生活をしていたからだろうか・・・。
なぜ、そんなに人のことを気にして、それなのに楽しそうにしてられるのか解らなかった。
だから10歳近く違う人生の先輩として何か言わねばと思いもしたが、結局は何も言えなかった。

十数年ぶりに君と会うことができた。
君は、変わっていなかった。
会えたことをとってもうれしそうにしている。
「結婚して子供ができたの・・。」「子供って面白くて・・・。」「みんな変わりないかな?」
まるで、この十数年の間がなかったように昔のまま嬉しそうに話す。
そっと、垣間見た君の手は昔と同じく荒れていた。
君は変わっていない。
外見は以前とあまり変わりがなく、年齢と比較するととっても若く見える。
そして、幸せそうだった。

そう、あの時からずっと君は忙しくて、朝から晩まで仕事や家事に追われていたんだね。
それなのに相変わらず、いろんな人のことを気にして、そして明るく生きてきたんだね。
どんなにつらくとも人にあたったりせず、周りに不満をあまりもらしもせず・・・
ぼくの歩んで来た生き方との違いは、最初からずっと今まで君は幸せだったろうって事なんだろうと気付いた。

森の中では、時々、目立たない美しい花をみつけることがある。
ちょっと見には、見逃してしまいそうで、一見目立たず素朴で派手さはない。
でも、何かの拍子に立ち止まり、よく見るとその花の美しさに気がつく。
この森にこんな花も咲くのだと感心してそっと見つめる。

でも、それはぼくの今までの生き方とは異なる生き方の美しさ。
それが何とも残念であったりもする。


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コメント 8

mimimomo

おはようございます^^
そういう生き方の人・・・共感します。わたくしもそういう人生が好き^^
by mimimomo (2008-03-14 05:32) 

むらさき

森の中の美しい花と捕らえて書いて
おいでになる、haru さんの感性も素晴らしいと思います。
彼女の心はとらわれない自由な心なのですね。
うらやましいです。
by むらさき (2008-03-14 20:56) 

青い鳥

森や路傍の名も知らぬ花、目立たない存在であってもとても美しいので、
私は大好きです。
フラワーショップで求める花よりも、ずっと美しさを感じます。
今回のヒロインが正にその姿ですね。
いつも、いいお話を有難うございます。
by 青い鳥 (2008-03-14 22:10) 

katsura

森のなかの花はだれも見ないはずなのに、きれいに咲きますよね。
by katsura (2008-03-14 22:50) 

pistacci

>明るく・・
>周りに不満をもらしもせず・・・
こういう生き方、憧れます。
by pistacci (2008-03-15 10:48) 

haru

皆様へ
この一月に友人が自殺して、そこから新しいストーリーを書くことができていません。そこで昔に自分が書いたブログを眺めてみると、全くどなたからもコメントはおろかnice!もいただいていない記事がありましたのでちょいと手直ししてみた次第です。全く新しい記事を期待された方には申し訳ない次第であります。お詫び申し上げます。

>momomomoさん
多分貴方はこういうタイプの方ではないかなぁと思っていました。
こういう生き方をされている方々には脱帽の思いです。

>むらさきさん
うらやましいと思いますが、ぼくにはそういう生き方ができません。
そっと眺めぐらいがせいぜいです。

>青い鳥さん
森林などを散策していると、花というのは、密集して咲いているものは少なくむしろあちらこちらにさり気なく目立たずにさいているのが自然なのだと知らされますね。

>katsuraさん
そうですね。自然の中では美しいことに対する評価が異なるのだとも思えます。

>pistacciさん
こういう生き方を目の当たりに見たぼくは瞬間恥ずかしく思ったりしました。


by haru (2008-03-15 12:01) 

pistacci

しばらく更新されていないので、どうなされているか、実は、気になっていました。やはりお友達の事があったのですね。無理のないことだと思います。今は彼のことをたくさん考える時間に使ってくださいね。
by pistacci (2008-03-16 00:29) 

かよりん

こういう生き方してみたい。
でも今の私には無理かなと思います。
まだ自分で自分を縛ってる気がします。
by かよりん (2008-04-14 05:57) 

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