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クライマーズ・ハイ   横山秀夫 [読書]

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 文庫


横山秀夫の作品はどれも、着古された背広の上着の匂いがする。
汗の匂い、タバコの匂い、焼き鳥屋や焼肉屋の匂いがミックスされた、あの匂いだ。
けっしてそれは、いやな匂いではなく、「現場」で働いている多くの男が持っている自然な匂いでもある。
刑事であったり新聞の編集者であったり、登場する男達の自然な体臭だ。

この作品は「現場」のもつリアルティが半端ではないため、読んでいる内に嗅覚まで刺激される。
「現場」で動き回る男の上着の匂いが他の作品よりもずっと強いのだ。
そういう意味では凄い作品だと思う。正直に言ってヤバイ気がした。
題材のリアルティについては本当に申し分がない。社会的にもトラウマを残したあの航空機墜落事故についてであり、しかも作者の経験に基づくというのだから・・・

タイトな仕事の「現場」っていうのは、客観的に見ると「泣き笑い劇場」に近い。
顔で笑って心で泣いて・・・そうした、いたたまれない思いに満たされている。
誰もが心に屈折と祈りに近い気持ちを持ちながら、それぞれの思いを抱いて酔ったように仕事に挑む。増してやそこに、「理想」を求めようとするならそれは、壮絶な戦いとなる。そして、苦しい状況に反して得られるある意味での恍惚感。
確かにこれ自体が登山に挑む「クライマーズ・ハイ」の症状そのものに似ているのかもしれないという気がする。

一番、心に響いたのは、「現場」で戦う父の不恰好で不器用な「長男との接し方」だ。
自分の「生き様」を「泣き笑い」を「祈りと屈折」を思いとして子に伝えたい。
しかし、それがうまくできないのが「現場」で戦う父なのだ。
愛していない訳ではない。いつも、すまないという思いがある。
しかし、「現場」へは別の思いがあり、それを捨てることもできず、距離は開いていく。
それでも、小さなきっかけで、少しでも思いが通じたと感じたときの喜びは大きい。

こんな微妙な父と子の有り様を実に巧みにリアルな物語展開の中に仕込ませてある。


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コメント 5

chiko99

ご訪問ありがとうございました。
私もこの本大好きです。
おもしろいですよね。
他に、重松清の本は、家族がテーマで書かれてることも多いので、
haruさんにお勧めだったりします・・・。
by chiko99 (2006-07-03 23:42) 

haru

那由多さんありがとうございます。
重松清はぼくも何冊かは読んでいます。
ただ、選んだものが悪かったのか(「疾走」とか・・)痛々しすぎて何か言葉につまる感じがあって・・・
自分の心の中で整理しきれない部分を残しています。
でも、とっても好きな作家の一人ですよ。
息子も「きよしこ」が好きなようです。
by haru (2006-07-04 09:09) 

chiko99

「疾走」はかなり重いので、私もちょっときついです。
読んだ後、落ち込んでしまいました・・。
重松清で最近読んだ中でおすすめは「きみの友達」です。
これはぜひ息子さんにも読んで欲しいです。
友達っていうものに対して、すごく考えられます。みんなじゃなくて、
たった一人でもいいから特別な友達を見つけて欲しいって
思います。私は子どもができたらぜひ読んで欲しい本です。
haruさん、気が向いたら読んでみてくださいね。
まだ文庫にはなってないと思います。
by chiko99 (2006-07-06 23:17) 

haru

那由多 さんありがとうございます。
「きみの友達」読んでみます。
ぼくは乱読気味で(無駄読みともいいます)月々の本代が大変なので、できるだけ文庫で買わざるを得ないという事情があって・・・(赤・・)
でも、これは「きよしこ」のように息子も読めそうなので久々に文庫以外で買おうと思いました。
by haru (2006-07-07 08:50) 

haru

鷲部さんnice!ありがとうございます。
by haru (2006-07-28 23:40) 

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