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悲しい思い出 [大人と子供]

IMG_3596.jpg

野幌森林公園 2009年3月  蝦夷リスとご対面

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このお話はフィクションです。そう、絶対に・・・。

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 「今日は、おじさん居ますか・・。」
 うだうだと、昔のメールを眺めてはため息をついていたぼくは、急に現実に戻った。また、亡くなった人の思い出に浸ったりしていた自分に気付く。大分痛みは感じなくなってきたとは言え、まだ大きな物を失った感じからは抜け出せない。そんな自分に嫌気をさしながらも、時間が余るといつの間にかついこういう行為に浸り、どっぷりと自分の中に入り込む。

 「はーい。かずちゃん。上がっておいでよ。」
そう言って、隣の家に住むかずちゃんを家に上げる。

「おじさん。」
「んっ、なんだい?」
「何していたの?」
「何ってさぁ・・。ぼーっとしていたよ。」
「あのね、おじさん、ぼーっとしていたって言うのは、何もしていないからぼーっとしていたんでしょ?」
ほら始まったぞっ。今日こそ大人の面子を・・。
「そんなことはないよ。ぼーっといろいろ考えていたんだよ。」
「だから、何を考えていたの?」
「何って、特に決まってないけどさぁ。・・・・」
「それってね、おじさん、何もしていないのと同じでしょ?」
こっ、このままでは面子が保たれない。何とか立て直さなくっちゃね。
「実は悲しい思い出に浸っていたんだよ。」
「おじさん、悲しいんだぁ。」
なんだか墓穴を掘った感じがするぞっ。
「そうだよ、いろいろ悲しいことがあってねぇ。」
「おじさん、昔のことばかり考えて悲しんでいると馬鹿になるよ。」
うっ、突然「馬鹿」ときたか・・。
「どうしてなの?」
「あのね、人はさぁ、悲しみを乗り越えて明日に向っていろいろ努力しなくちゃいけないんだよ。」
「それは、誰が言ってたの?」
「神様だよ。後悔ばかりしていないで明日のために努力しなさいって教会で話してたよ。」
「・・・・。」
その通りです。またまた、この子に教えられた。もしかするとこの子は、ぼくに啓示を与えにきたのかしらん。
「おじさんさぁ。」
「ああ、ごめんね。アニメチャンネル見たいんだよね。えーっとトムとジェリーは・・。」
「ぼくはね。おじさん。もう小学校に入るから、そういうのは見ないよ。」
そうだった、この子は今度小学校に入るんだった。
「でも、おじさんが見たいのなら、見てもいいよ。」
うううっ、何でぼくがトムとジェリーを見なくちゃいけないの・・。
「じゃあ、ジュースでも飲もうかな。」
「おじさん、ぼくは前から牛乳のほうが好きだよ。」
「はいはい、牛乳ね。」
コップに牛乳を注いで上げると、コクコクコクととってもおいしそうに牛乳を飲む。そのコクコクという音が随分と懐かしく、思わず見とれてしまった。
「おじさん、どうもありがとう。」
「えっ、ああ、どういたしまして・・。」
「また、悲しくなったらぼくに言ってよ。」
「うん、そうだね。」
しまった、こんなはずじゃあ・・・。

「ところで、かずちゃん、何か用事あったの?」
「おじさん、ぼくにもいろいろあるんだよ。」
「ふーん、そうなの、いろいろねぇ・・・。」
良く解らないけど、まぁそう言うのだからいろいろ有るんだろう。そう言えばこの前はお兄ちゃんと喧嘩したって言ってたし。小学校に入るともなればいろいろあるかぁ。
「おじさんもいろいろあるんだよね。」
「うっ、まぁねぇ。」
話題をずらすために、アニメチャンネルをつけた。相変わらず逃げるジェリーに追いかけるトム。ふと見るとアハハ、アハハと笑って見ているかずちゃん。やっぱり見たかったんだよなぁ。でも、そこは突っ込まないようにしておくか。何せ彼にもいろいろあるのだし・・・。

 トムとジェリーが終わった。
「おじさん。」
「なんだい?」
「笑ってたよ。」
んっ、そうだ、いつの間にかいっしょにアニメ見ながら笑ってたなぁ。そう言えばかずちゃんが来てから、一度も悲しい思い出について考えなかった。
「また、見たかったら言ってね。」
だーから、別にぼくはアニメ見たくないって言ってるのに・・・。

 


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コメント 9

青い鳥

思わずフィクションではなくて、ノンフィクションであって欲しいと思ってしまいました。
かずちゃんが、神様からharu様のもとへ遣わされますように。
by 青い鳥 (2009-03-22 12:36) 

mimimomo

こんばんは^^
子供の純朴さ、純粋さと言ったものって、時折必要ですね^^
by mimimomo (2009-03-22 19:00) 

ちょんまげ侍金四郎

かずちゃん。。。身近に欲しいですね
by ちょんまげ侍金四郎 (2009-03-23 08:15) 

風子

何度も何度も繰り返して受け入れていくのでしょう。
この作業は大事な事ですね。
かずちゃんが刺激剤になって、いい感じですよ。^^
温かさが伝わってきます。
by 風子 (2009-03-23 08:48) 

Yuki

誰の心の中にも、かずちゃんが居るといいですね!
思い出に浸るのも大切なことですが、それで不幸な気分には
浸らないでくださいね。
by Yuki (2009-03-24 20:33) 

haru

青い鳥さん
そう、かずちゃんは本当にいます。
ぼくが苦しんでいるときに時々現れて固くなった心をほぐしてくれますよ。
by haru (2009-03-24 20:49) 

haru

mimimomoさん
子供は時として大人のお手本になる時がありますよね。


by haru (2009-03-24 20:50) 

haru

ちょんまげ侍金四郎さん
あらら、貴方のそばにはいつもかずちゃんより素敵な天使がいるじゃないですか・・


by haru (2009-03-24 20:51) 

haru

Yukiさん
悲しみや心の痛みは少しずつ風化してゆきます。
だんだん形を失っていきますが、でも土台の部分はしっかりと残っていますね。
もう思い出にひたっても、さらに深く傷つくようなことはありません。
by haru (2009-03-24 20:54) 

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