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「悲しい人達」 その⑲ 「幸福探し」 [ショートストーリー]

写真  野幌森林公園 ナナカマド 2007年9月

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以下はフィクションです。
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空っぽになった東京のアパートを後にする。

運悪く59歳で会社が倒産した。
そして、別の会社に買収されることとなった。
人事の責任者として、従業員の再雇用のために会社の倒産後も奔走していた。
「皆さんの再就職先は責任をもって最後まで斡旋させていただきます。」
そういった社長の従業員向けの倒産発表の壇上に人事責任者として立たされた以上、責任を強く感じたのだ。
会社の買収先、取引先、職安、同業などあちらこちら手をつくし、従業員の再就職先を紹介していた。
ようやく一段落終わったと思い、回りを振り返ると、肝心の自分の再就職先が無いことに気がつく。
買収先の人事担当者も俺の再就職の話についてはずらそうとしているのが何となく解った。
同じ人事の立場から事情は直ぐに理解できた。
歳も歳なのでまともな正社員としての転職など見込めないと諦めることにした。

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「悲しい人達」 その⑰ 「プライド」 [ショートストーリー]

写真 野幌森林公園 2007年9月

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以下はフィクションです
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居間のテラス側のガラス戸を全開にする。初秋の気持ちの良い空気と鳥の鳴き声が部屋の中に満たされる。
居間の床と続きになっているテラスのウッドデッキに立つ。広い牧草地と畑や林が広がり、少しずつ前方に下がってゆく。遥か遠くの小さな町並を見下ろす感じの広大な景色が広がる。真っ青な空に秋らしい雲が流れる。
家の壁にセットしてあるロールカーテンのように巻き上げたテラスの屋根を引き出し、端をテラスの柱に止める。そして、折りたたみ式のデッキチェアを組み立てて、テラスの備え付けのバーベキューコンロの横に座る。
コンロに炭を入れ火をおこし、網を置いて、鶏肉やとうもろこしやジャガイモを焼き始める。
面倒な料理などはしなくていいと思い、テラスにコンロを備え付けた。
腹が減ったら、景色を眺めながら肉でも野菜でも魚でも焼いて食べればいい・・・。そういう生活になんだか憧れていたのだ。でも、大切なものが足りない。
少しずつワインを舐めながら景色を眺める。

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「悲しい人達」 その⑯ 「心を騙す」 [ショートストーリー]


写真 野幌森林公園  2007年8月

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以下はフィクションとは言いがたい、ほぼノンフィクションです。
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心も体もほとほと疲れている。
足取りもゆっくりだし、思考も時々途切れる。
50歳のこの年齢になるまで、一人で酒場で酒など飲んだことはないのだけれど・・・。
でも、今夜はなんとなく盛り場の方向に足が向く。

太陽が輝きを失いススキノの明るいネオンを目指して、たくさんの人が歩いている。
いつもの光景なのになんだか今日はとっても物憂げに見えたりもする。
人々はたとえ顔は笑っていても満たされない心を引きずって酒の酔いを求めているようだ。

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「悲しい人達」 その⑭ 「繋ぐもの」 [ショートストーリー]


写真  野幌森林公園 2007年8月

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以下はフィクションです。
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朝、厨房入口から施設に入る。
着替えてマスクに白い帽子を被り厨房へ・・。
たくさん焼きあがった朝食用の目玉焼きをチェック。
形の歪なものや黄身が端によったものを早朝勤務職員の朝食用にはねていきます。
朝食の目玉焼きの形でその日のお年寄りの気分が変わるということに気付いたのはこの仕事について半年目。
形の歪な目玉焼きを前にして悲しそうにじっとしているお婆ちゃんを見てはっと気が付きました。
「このお婆ちゃんは目玉焼きの形が歪なのが悲しいんだわ。」
そうしてこの仕事の本当の意味が解った気がしました。
丸い鉄の輪を置いて中に卵を落とし焼く簡単な方法もあるのだけれど、そうして焼いたものはお年寄りにとっては目玉焼きではないと思うので施設長との相談の結果、そういう方法は使わないことにしました。

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「悲しい人達」 その⑬ 「祭り」 [ショートストーリー]


写真  野幌森林公園 2007年7月
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以下はフィクションですが、実話に基づいています。
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今日は俺の勤める病院の「夏祭り」だ。
昨日まで一週間程かけてスタッフ総出でいろいろと準備をした。
廊下に提灯を模した厚紙に絵を書いたものをたくさん作って下げたり、ダンボールでお神輿作ったり、わたあめ、ヨーヨ釣り、カキ氷などの縁日模擬店の準備をしたり・・。介護師一年目の俺はいったいなんのためにこんなことをするのか良く理解できなかった。まるで、幼稚園の学芸会の準備のようでどこか子供だましじゃないかと思えた。けど、まぁ、勤務1年目の最年少の俺としては周りのスタッフの一生懸命な様子につられて、叱られながらも真面目に準備に参加したよ。それじゃなくても夜勤があったり、入退院が多かったりと結構通常業務がハードなので疲れたけどね。あんまり頭も良くないし、見栄えも良くはない俺でも何かと頼りにしてもらえるのはちょっと嬉しかったりもするよなぁ。でもさぁ、やっぱりカッコ良い仕事じゃないし、給与安いから、これから先もこの職を続けるかは疑問符ってところかなぁ。

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「悲しい人達」 その⑫ 「再会」 [ショートストーリー]


写真  野幌森林公園  2007年7月

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以下はフィクションです。
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一人の部屋に漂うビル・エバンスのピアノ・・・。
晩年のエバンスは本当に切ない音を出す。
東京の1DKのアパートはこの日のために用意されていたように無機質で閉鎖的だ。
エアコンが澱んだ空気をかき混ぜて冷やそうとしているが、爽快感は到底得られない。

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「悲しい人達」 その⑪ 「震え」 [ショートストーリー]


写真  野幌森林公園  2007年7月

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以下はフィクションです。
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「どうして、ぼくが貴方に合いに来たのか、わかりますか?」
そう問い掛けると、一瞬驚いた顔をして取り繕ったような笑顔で返してくる。
「よく解らないよ。」

サラリーマンの世界はペーソス。
いつも切ない思いに満ちている。
金銭事故が発生し不正の疑惑が持ち上がる。
ある程度の客観的な証拠も揃える。
しかしながら、確証には到らず、また、警察でもないのでそれ以上の捜査も不可能。
しかし、上司は納得しない。
「何とか、処理しろ」というのが、ぼくが受けた命令。

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「悲しい人達」 その⑨ 「決心」 [ショートストーリー]

写真 野幌森林公園 2007年6月

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以下はフィクションです。
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一年ぶりに車を懐かしい駐車場に入れる。
車はまぁまぁの台数が置かれており、最近の自然志向の定着ぶりを証明しているのだろう。
数年前までは訪れる人の多くなる初夏でもこんな台数が置かれていることは無かった。

車のドアを開けると同時に鳥の鳴き声につつまれる。
ホーホケキョ、カッコー、ピィーピィー、とても賑やかだ。森は変わらない。
森の入り口に立ち気持ちのいい空気を吸い込むと、緊張が少しずつ解けるのが解る。
初夏の早朝の森の空気が体に染込んで淀んだ思考や濁った血液を洗い流していく感じがする。
不眠に悩まされて疲れた心や体に気持ちが良い。頭の中がスーッとして、幾分か体に活力が溢れる。
久しぶりの森の空気に触れて、またここに来て良かったのだと思う。以前は最低でも週一は森を歩いていたのだ。

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「悲しい人達」 その⑧ 「単身赴任」 [ショートストーリー]

写真 野幌森林公園 2007年6月

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以下はフィクションです。
ちなみにぼくは現在は単身赴任はしていません。
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 五反田で山手線から都営浅草線に乗り換える。
 ここでいつも考える。
 今日の晩メシは何にしようか・・。冷蔵庫の中には何があったか。
クリーニングの上がりはいつだったか・・。今日は洗濯機を回さなくてもよかったか。
晩メシの材料を買って帰るのなら降り口を南側にしなくてはならない。
クリーニングを引き取って帰るのなら、買い物の後にしなくてはならない。
洗濯をするのなら回りの迷惑を考えできるだけ早く帰り、一番に洗濯機を回さなくてはならない。
会社での事は一旦クリアにして、これからの段取りを思い描く。

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「悲しい人達」 その⑦ 「薀蓄(うんちく)」 [ショートストーリー]


写真 野幌森林公園 2007年5月 クルマバソウ

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以下はちょっとだけフィクションです。
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ぼくのとなりの家に新しい家族が引っ越してきた。
前に住んでいた家族にはとっても元気な男の兄弟がいて結構楽しい思いをさせてもらったので今度はどんな家族がやってくるのか正直とっても楽しみだった。
案の定、元気そうな子供が3人・・・
我が家の子供はもうとっくに大きくなって親を相手にしてくれなくて正直寂しい気がする毎日。よその子供と会話ができたりするのがとっても楽しみだったりする。

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